おいしい野菜の作り方
[第12回]果菜類の育苗 2022年12月号
栽培カレンダー
中間地の場合
今年の果菜類は、好みの品種をタネから育てよう!
トマトやナス、キュウリなどの夏野菜は苗から育てることもできますが、加温設備などを利用してタネから育苗することも可能。苗では出回らない珍しい種類や品種を選べ、生育のよい苗を植え付けることで収量が向上するメリットがあります。また、トレイからポット、地面へと移植することで草勢が抑えられ、過繁茂による収量低下(つるぼけ、木ぼけ)を防ぐ効果も期待できます。
1. 開始時期の選定
植え付け適期から逆算する
育苗栽培のタネまきは、植え付けが可能になる最低気温10℃以上、最低地温15℃以上で遅霜の心配がなくなるころから、育苗日数を逆算してスタートします。中間地では4月下旬〜5月上旬が植え付け適期です。保温と風よけのため、4月下旬から植え付ける場合はトンネル被覆、5月上旬以降は肥料などの空き袋を利用して苗を囲い(行灯)、苗の生育を保護、促進します。
2. タネまき
セルトレイに1粒ずつまく
ナス科は、128穴や200穴のセルトレイで1次育苗を行います。「タキイ たねまき培土」などの清潔な土をトレイに詰め、板で表土を平らにならした後、指などでセルに深さ5~10㎜のまき穴をあけます。空のトレイを上から均一に押してくぼみをつける方法もあります。タネは1穴1粒ずつ落としますが、小さくて指でつまみにくい場合は、タキイのタネまき用器具「カリカリくん」を使うとスムーズに行えます。
ウリ科は、128穴や72穴のセルトレイに1穴1粒ずつタネをまき、1次育苗を行います。
必要な苗数が少ない場合は、ペットボトルなどの育苗トレイで発芽させることもできます。
「カリカリくん」の使用例(キュウリのタネまき)。
タネまき(セルトレイ)
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① 土を詰める
湿らせた土をセルトレイに入れる。板切れなどで表面をならす。トレイの端の部分は土が入りにくいので、まんべんなく土を入れる。 -
② まき穴をあける
空のセルトレイを上から均一に押し当て、深さ5~10㎜のくぼみをつける。 -
③ タネをまく
1穴に1粒ずつタネをまく。ナス科などの小さいタネは、水でぬらしたつまようじにくっつけてまくと作業しやすい。
タネは平らな皿などにあけるとよい。 -
④ 覆土する
タネまき後の穴に土をかぶせる。板切れで余分な土を落として平らにする。底穴から水が出るくらいたっぷり灌水する。 -
⑤ 新聞紙をかぶせる
培養土が乾かないようトレイの上に新聞紙をかけて管理する。育苗箱を上にかぶせておくと、乾燥や小動物による食害を防ぐことができる。
培養土選びは慎重に!
育苗に用いる培養土は、原料の種類、㏗の調整、添加される肥料、病原菌や雑草種子の有無などにより、苗の生育に大きな影響を与えるので、排水性、保水性、通気性に優れた用土を選ぶとよいでしょう。培養土の袋に記載されている肥料添加量のうち、特にチッソの成分量に留意します。300~400㎎╱ℓ程度チッソが添加されているものは、肥効が長く続き管理がしやすいのでおすすめです。添加量が少ないと、液肥などを追肥して草勢をコントロールする必要があり、逆に添加量が多めだと生育は旺盛になりますが、徒長しやすくなり老化も早まります。
育苗に適した肥料成分がバランスよく含まれている「タキイたねまき培土」。果菜類の育苗にうってつけ。
3. タネまき後の管理
発芽までは高温を維持
タネをまいてから発芽まで、28℃前後の高温を維持することが、発芽を安定させるポイントです。タネまき時期は、発芽適温に満たない気温が続くため、28℃前後の発芽適温を維持できる加温装置などを利用し、一斉に発芽させることが重要です。加温装置がない場合は、ペットボトルの育苗容器や人肌で温めるなどして加温し(下の「囲み記事」参照)、確実に催芽や1次育苗をしてからポットに鉢上げします。
発芽が揃った後は、夜間の最低温度が15℃程度で生育に問題はありません。
発芽直後に新聞紙を外す
タネまきの2~3日後くらいから発芽し始めたタネが培養土を押し上げて表面が盛り上がってくるので、速やかにふたと新聞紙を外します。タイミングが少しでも遅れるとすぐに徒長してしまうので、よく注意して子葉が出る前に取り除くことがポイントです。
発芽後、培養土の表面が乾いてきたら軽く灌水します。温度管理は夜温を徐々に15℃程度まで下げて徒長を防止します。日中は30℃を超えたら換気し、気温上昇による徒長を防ぎます。
家庭で育苗する場合のヒント
低温期にタネをまいて発芽させるには、高温を維持するための加温装置や被覆資材、温度をコントロールするサーモを利用すると便利です。苗が少量なら小型の加温育苗器「愛菜花」、セルトレイで大量に育苗するなら「保温育苗パーフェクトドームセット」「ひなたぼっこ春夏秋冬セット」などを利用し、自分の環境に合った設備を導入するのもおすすめです。環境を制御し、収穫期の幅を広げる醍醐味を味わえます。
加温装置や被覆資材などがセットになった「保温育苗パーフェクトドームセット」。
「花と野菜ガイド2023年春号」P.275で販売。
4. 植え付けまでの管理
鉢上げして大きく育てる
苗の成長に伴い、鉢上げ(植え替え)をして根や葉の成長を促します。ナス科の鉢上げは、セルトレイの苗の本葉が2枚展開したころ、培養土を詰めたポリポットに植え穴をあけ、挿し込むように植え付けます。
ウリ科の鉢上げは、子葉が展開したころ、培養土からていねいに掘り上げ、指で穴をあけたポットに植え付けます。
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苗の根元付近を指でつかみ、根を崩さないようにそっと引き上げる(写真はトマト)。
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培養土を詰めたポリポットに植え穴をあけ、植え付ける(写真は直径9㎝のポット。本葉4~5枚で12~15㎝のポットに移植してもよい)。
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鉢上げ後は、育苗トレイなどに並べて管理する。
9~15㎝ポットが使いやすい
ポリポットの直径は、育苗期間の長いナス科は12~15㎝のものを、ウリ科は9~12㎝のものを使用します。ナス科は9㎝のものに鉢上げし、本葉4~5枚のころに12~15㎝のポットに移植してもよいでしょう。ポットが小さすぎると、根が回りすぎて老化が早まり、植え付け後に活着しにくくなります。
鉢上げ後はポットに十分灌水して活着を促します。活着後の灌水は、午前中にたっぷりと行い、午後はしおれない程度に控えめにして、夕方にはポットの表面が乾く程度に管理します。
(左)9㎝ポットで育苗したトマトの根。根が回りすぎて老化し、やや黄色化している。
(右)12㎝ポットのものは根の回り方が適度で、根量が多く、白くて健全。
「ずらし」と「順化」
苗が成長してきたら、隣同士の葉がなるべく重ならないように間隔をあける「ずらし」作業(スペーシング)を行い、徒長を防ぎます。
また、鉢上げ後の温度管理では夜温を徐々に下げていきます。植え付けの5日前からは日中も強めの換気を行い、植え付け後の環境変化に耐えるよう、段階的に「順化」を進めましょう(温度管理の目安はこちらを参照)。
ずらし
苗の様子を見て追肥する
苗の葉色が淡い、葉が小さいなど肥料切れの症状が見られたら、規定倍率に薄めた液肥を灌注します。また、植え付けの直前にも液肥を与えておくと、苗の活着がよくなります。
ナス科の植え付け適期は、1番花の状態を目安に、ナス、ピーマンは開花直前(蕾)、トマトは咲き始めたころとなります。ウリ科は本葉展開枚数を目安に、スイカ4~5枚、キュウリ2.5~3枚、カボチャ3.5枚のころが適期となります。
ペットボトルを利用した催芽
少量のタネをまく場合、2ℓのペットボトルを使って小型の育苗容器を自作すると便利です。1ケースにタネを6〜8粒並べてまくことができ、ボトルの上部を切ってかぶせるとミニ温室になります。日中暖かな日当たりのよい所にミニ温室を置けば、内部の温度を30℃くらいに上げることができ、夜間暖房の効く屋内に移動すれば、加温設備なしでも1次育苗することができます。
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① 2ℓのペットボトルを用意する(中央よりやや上に凹みがあるものがよい)。カッターで下から8㎝位の所と、凹みの部分をカットして上部と下部のパーツを作る。
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② 下部の底に10カ所ほど排水用の穴をあけて湿らせた培養土を詰める。2~3㎝の間隔をあけ、タネを1㎝ほどの深さに押し込む(写真はカボチャのタネ)。
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③ 温度計をセットし、上部のボトルをかぶせてミニ温室にする。日当たりのよい所に置き、28~30℃を確保する。極端に土が乾かなければ水やりは不要。
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④ 30℃以上になったら、上部のボトルを外すか、ボトルのふたを開けるなどして換気する。夜間は室内の暖かい場所で管理する。
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⑤ 2~3日で発芽する(写真はキュウリ)。ナス科は本葉2枚、ウリ科は子葉が開いたら根を崩さないように掘り上げ、ポリポットに鉢上げする。
マスクを使った催芽
自分の体温を利用して、懐で発芽させることもできます。不織布マスクを加工して首から胸の辺りにつるすようにすると動いてもあまり気にならず、体温もよく伝わります。肌身離さず身につけ、発根してきたら(白い根が少し出てきたら)ポットに鉢上げします。
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① 水にぬらしたキッチンペーパーにタネを並べて包む(写真はスイカ)。
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② 小さめのレジ袋の持ち手部分を切り取って中に入れ、折りたたむ(酸素が必要なので密閉しないようにする)。
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③ 不織布マスクの端を切って袋状にし、②を入れる。ゴムひもをつなげてつるせるようにする。
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④ 首から服の中の胸の辺りにつるし(マスクが地肌に当たるようにする)、体温で温める。発根したらすぐに取り出して鉢上げする。
プロ農家も注目する品種は?
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トマト
フルティカ®食味を追求した人気の中玉種。裂果が少なく、完熟果が収穫できる。
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ナス
とげなし千両二号栽培しやすく、料理に使いやすい。果実にトゲがないので扱いやすい。
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スイカ
ニューこだま上品な甘さの黄肉種。生育旺盛で家庭菜園でも作りやすい。
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ピーマン
ピー太郎苦みが少なく肉厚でジューシー。薄く刻んでサラダにしても美味。
渥美 治久(あつみ はるひさ)
種苗会社で野菜の育種、栽培技術指導業務に約30年間携わり、ニンジンなどの主力品種開発に貢献。退社後、静岡県浜松市で「恵み一色ファーム」設立。認定農業者として露地野菜20品目以上を生産。小学校の食育など地域活動にも貢献。