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おいしい野菜の作り方
[第10回]ホウレンソウ 2022年10月号

おいしい野菜の作り方

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DATA
  • ホウレンソウ Spinach
  • 科名:ヒユ科
  • 原産地:中央アジア
  • 生育適温:15~20℃
  • 発芽適温(地温):15~20℃

栽培カレンダー

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時期に合った品種選びで大収穫を目指そう!

冷涼な気候を好むホウレンソウは、寒さに当たってより甘みを増すので、秋から冬に栽培する作型が主流。豊富な栄養素を含み、特に葉酸、鉄分が多く、貧血予防にも積極的にとりたい野菜です。
厳寒期にトンネル被覆をすることで10月からのタネまきも可能。味のよい東洋種など多くの品種が栽培できるので、ぜひ好みの品種を育ててみましょう。

1. 基礎知識

涼しい気候を好む野菜

ホウレンソウは、アフガニスタン周辺の中央アジアが原産とされ、イラン、中国を経て17世紀ごろ東洋系品種が日本に伝来しました。また、ヨーロッパやアメリカで改良された西洋系品種も明治以降日本に導入されました。
冷涼な気候を好み、発芽適温、生育適温はともに15~20℃で、25℃を超えると発芽率の低下や生育の抑制が見られます。耐寒性は強く、マイナス10℃でも耐えることができます。
土壌の好適㏗は6.3~7.0で、㏗5.5以下の酸性では発芽率が低下し、根が褐変して生育が阻害されます。また、湿害に弱いため、有機質に富んだ排水性のよい畑が栽培に適します。

2. 品種選び

東洋系と西洋系がある

東洋系品種は、葉先が尖って切れ込みが深く(剣葉タイプ)、根元は濃赤色で、食味がよいのが特徴です。耐寒性が強い一方、抽苔が早いため、秋まきで栽培されます。タネは一般的にトゲのある角タネです。
西洋系品種は、葉の切れ込みは少なく(丸葉タイプ)、根元は淡赤色で、厚い葉肉で食べると土臭が感じられます。耐暑性があり、晩抽性であることから春~夏まきで栽培されてきました。タネはほとんどが丸タネです。

現在の主流はF1

現在主流となっているのは一代交配種(F1)で、両親に東洋系と西洋系またはそれらの雑種を用いて交配し、多収で生育が早い、晩抽性で食味がよいなど、両系統のよい特徴を併せもった品種が数多く育成されています。
秋まきや春まきの栽培では、べと病が発生しやすい気候条件のため、耐病性をもつ品種選びが重要です。低温下で生育する秋冬まき栽培では、耐寒性に加え、低温伸長性に優れた品種が適しています。長日と気温上昇により、抽苔しやすい春まき栽培では、晩抽性に優れた品種を選定することが重要です。

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    寒さに当てて栽培する「寒じめ」に利用される ‘朝霧’。寒さに当たると葉が適度に縮れ、おいしさが増す。

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    アクが少なく、サラダの彩りとしても重宝する赤軸ホウレンソウ ‘早生サラダあかり’。

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    昔ながらの東洋系品種 ‘次郎丸’。春まきではトウ立ちしやすいので、秋からの栽培に。

3. 畑の準備

施肥は全量元肥で

タネまきの1カ月前までに、完熟堆肥を1m2当たり1~2㎏、㏗6.5を目標に、苦土石灰150~200gを施して耕します。秋冬まきの場合、基本的に全量元肥で1週間前までに、1m2当たり成分量でチッソ20~22g、リン酸20~23g、カリ20gを施します。秋まきや春まきでは、秋冬まきに比べて気温が高く肥料分が吸収されやすいため、チッソ15g、リン酸20g、カリ15gと少なめにします。

有孔マルチが便利

畝のサイズは、畝幅70~80cm、畝高10~15cm、4条で条間約20cmとします。秋冬まきでマルチ栽培する場合は、畝幅70~80cm、畝高約10cmとし、5条で条間、株間ともに約15cmで穴のあいた有孔マルチの使用がおすすめです。

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知っておこう!べと病の「レース」とは

ホウレンソウのタネ袋やカタログには「べと病レース1~15に抵抗性をもつ」などと書かれていることがあります。レースとは病原菌の系統や種類のことで、数字はその変異を表しています。
べと病は、ホウレンソウの重要病害の一つ。突然変異でレース分化が起こりやすく、新しいレースの発生サイクルが早くなっているのが現状です。育種の努力により多くのレースに対応する抵抗性品種が開発されていますが、対応していないレースには抵抗性が発揮されず、確実に予防することができません。そのため、抵抗性品種の利用だけでなく、薬剤による防除やチッソ過多にならない施肥設計、雨よけ対策などを併せて行うことが大切です。

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例えば、品種C(レース2に抵抗性がある)の場合、レース2以外の病原菌に対しては予防効果がないことを表す。たくさんのレースに対応した品種の方がより安全だが、たまたま対応していないレースや、新しく変異したレースで発病することもあるため、頼りすぎないよう注意が必要。

4. タネまき

1~2cm間隔でタネをまく

マルチなしの場合は、平らにならした畝に、板などを使って深さ約1cmの溝を切り、1~2cm間隔でタネをまきます。溝横の土を崩して覆土し、上を板で押さえて均等に鎮圧します。
有孔マルチを使用する場合は、深さ1cm程度のまき穴に1穴5~6粒ずつタネをまき、覆土、鎮圧します。
タネまき後は、表土の乾燥状態により適度な灌水をして均一に発芽させることが重要です。

5. 間引き

収穫までに2回間引く

子葉が開いたころ、1回目の間引きを行います。株間を指1本が入る程度(2~3cm)にします。2回目(最終)の間引きは、本葉が2~3枚開いたころに、秋冬まき栽培で5~6cm、秋まきや春まき栽培では7~8cmの株間にします。有孔マルチを使用する場合は、1穴当たり3本残して間引きます。生育が弱いものや強すぎるものを間引くと、生育が揃いやすくなります。

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    発芽後、初生葉が展開したホウレンソウ。

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    子葉が開いたら、2~3cm間隔に間引く。

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    本葉2~3枚で5~8cm(まき時により異なる)間隔に間引く。

立枯病に注意

立枯病は、発芽後に根部がピシウム菌に侵され、胚軸がくびれて立ち消え欠株となる病害です。多く発生すると収量が大幅に低下します。また、株腐病や根腐病も生育初期に同様の症状が見られますが、いずれも過湿条件で発生しやすいので、畑の排水対策と高畝で対処します。病気が出た圃場では連作を避け、被害株は畑の外に持ち出して処分し、被害の拡大を防ぎます。

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立枯病の症状が見られる株(写真上)。下は正常。

上手に発芽させるコツは?

まき溝と覆土を均一に

タネをまく深さがバラバラだと発芽が不揃いになりやすく、その後の生育にも影響します。まき溝は板などの道具を使って平らに整え、なるべく均一に覆土してしっかり鎮圧します。土が適度に湿った状態で鎮圧することによって、地中から毛管水が通るようになり、発芽が安定します。タネまき後に土が乾燥している場合は、十分に灌水する必要がありますが、過度の灌水で水がタネの周囲にたまった状態になると、土の団粒構造が崩れて酸欠状態となり、発芽や生育不良の原因になるので注意しましょう。

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    溝の底が平らで、覆土の厚さが均一だと発芽が揃う。

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    覆土後の鎮圧が不十分だと土壌水分が不均一となり、発芽が不揃いになりやすい。

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    まき溝の底が凹凸だと、覆土の厚さが一定にならず、発芽が不揃いになりやすい。

エボプライム種子の利用も

ホウレンソウのタネは、かたい果皮の殻に覆われており、そのままでは吸水しにくく発芽が不揃いになるため、多くの市販種子には、発芽促進処理がされています。タキイの種子には果皮をやわらかくする処理が施されている「エボプライム種子」もあり、発芽が揃いやすいので利用するのも一案です。

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発芽促進処理を施したエボプライム種子。

覆土はどれくらいがよい?

写真は、ホウレンソウの覆土の厚さの違いによる発芽試験の結果で、5~10mmの発芽揃いが良好でした。15~30mmも遅れて発芽しましたが、雨による過湿や土の硬化、乾燥などに見舞われることがあるため、早く発芽させる方が有利です。5mmは乾燥した場合の影響が大きいので、まき溝の深さは10mmが推奨されます。

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ハウス内で市販の黒土を使い、タネまき後6日目に撮影したもの。右から5mm、10mm、15mm、20mm、25mm、30mm。推奨は10mm。

6. 収穫

草丈20~25cmで収穫

草丈が20~25cm、葉数が7~8枚になったら収穫の目安です。根付きで抜き取るか、地際に刃物を入れて根を1cmほど付けて刈り取ります。収穫後は、根と子葉、初生葉2枚、傷んだ葉などを除去して調整し、株がしおれないよう風の当たらない涼しい場所に置きます。しばらく放置する場合は、ぬれタオルなどを掛けて乾燥を防止します。また、ホウレンソウを横に倒した状態で置くと、起き上がろうとして反り返ることがあります。無駄なエネルギーを消費して栄養価を損なわないためにも、なるべく立てた状態にして保存します。

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    収穫適期のホウレンソウ。

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    カマの刃を土に入れ、根を1cmほど付けて刈り取る。

マネしたい!プロのワザ

渥美流袋詰めのコツ

ホウレンソウを出荷用の袋に詰める場合、肥料や培養土の袋、クリアファイル、新聞紙などを適当な大きさに切って、包んだ状態にするとスムーズに袋へ差し入れることができます。専用のシートや器具も市販されています。袋は口が広がった葉物専用のものを使用するとバランスのよい荷姿になります。
根の泥が葉につかないよう、乾いた状態であれば根から払い落としてから袋詰めします。泥が落ちにくい場合は、根の部分だけ少し水につけて洗い流し、水を切って袋詰めします。葉がぬれた状態で袋に詰めると傷みの原因となるので注意します。

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    おすそ分けにも便利!

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    まずは重量を量る。空き袋などを適当な大きさに切り、葉を載せる。

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    葉を空き袋で包んだ状態で出荷用の袋に差し入れる。その後、空き袋を引き抜く。

Let’s try!シュンギクを作ってみよう!

栽培の主流は中葉種

シュンギクは、地中海沿岸が原産の植物で、美しい花が咲くことからヨーロッパでは観賞用に栽培されています。東アジアに伝わってから野菜用に改良されました。独特の香気があり、鍋料理や和え物などにぴったりです。
葉の大きさや切れ込みの深さの違いで大葉種、中葉種、小葉種に分けられますが、主に使われているのは中葉種で、株が横に広がる「株張り種」と縦に節間が伸びる「摘みとり種」の2タイプがあります。またʻ菊祭ʼのようにスティックタイプの新しい品種も登場してきました。

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シュンギクの花。

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冷涼な気候を好む

発芽適温、生育適温はともに15~20℃で、冷涼な気候を好み、気温が25℃以上になると生育が悪くなります。露地では8月中旬〜10月に播種する秋冬どり栽培と、4月中旬〜5月中旬に播種する初夏どり栽培が行われます。種子の発芽はやや好光性なので、覆土は薄くし、発芽までは乾燥させないようにします。
12月以降も栽培を続ける場合は、穴あきの被覆資材をトンネル掛けして保温することで、2月ぐらいまで収穫できます。株張り種は、草丈が15~20cmになったら、根ごと抜き取って収穫します。摘みとり種は、伸びてきた側枝を順次摘み取って収穫します。

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摘みとり種の収穫
わき芽を切り取って収穫する。

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    株張りタイプの大葉種 ‘菊之助’。

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    茎が長く、生食にも向く ‘菊祭’。

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    摘みとりタイプの ‘きわめ中葉春菊’。

プロ農家も注目する品種は?

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    弁天丸®

    癖のない食味で甘みがある。葉がしなやかで折れにくく、収穫作業がしやすい。

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    強力オーライ®

    生育旺盛で作りやすく、菜園ビギナーにもおすすめ。葉は肉厚で色づきもよい。

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    寒兵衛®

    株張りがよくたくさんとれる。畑でのもちがよく、長期間収穫が楽しめる。

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    冬ごのみ®

    味に特化した甘くてアクが少ない品種。葉の切れ込みが深く東洋種に似た草姿。

タキイネット通販でご購入いただけます


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渥美 治久(あつみ はるひさ)

種苗会社で野菜の育種、栽培技術指導業務に約30年間携わり、ニンジンなどの主力品種開発に貢献。退社後、静岡県浜松市で「恵み一色ファーム」設立。認定農業者として露地野菜20品目以上を生産。小学校の食育など地域活動にも貢献。

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