育てやすく、暮らしに利用できる「低木のハーブ」 2022年12月号
ハーブといえば草花をイメージしがちですが、じつは木本類、いわゆる木となるものもあります。
庭や玄関周りの植栽に利用しやすい低木も多く、これらは比較的管理が手軽です。
料理など暮らしのさまざまなシーンで利用できる、低木のハーブをぜひ庭に加えてみてください。
低木のハーブは剪定がしやすく メンテナンスが楽!
自宅の庭やベランダでハーブを育て、必要な時に必要な量だけ摘み取って、日々のさまざまなシーンで利用してみませんか?「おうち時間」が増えた近年では、ハーブのある暮らしがますます人気を集めています。料理でよく利用するミントやバジル、チャービルなどをご自身で栽培している方も多いことでしょう。ハーブの多くは一年草や宿根草などの草本類、いわゆる草花ですが、中には木となるものもあります。例えばハーブとしてよく知られるラベンダーやローズマリーもじつは低木です。管理の手間が少なくて済む、ローメンテナンスな庭づくりが注目される中、剪定が手軽にできる低木は欠かせない存在になっています。その低木がハーブとして利用できるなら、まさに一石二鳥!もしスペースがあれば、ぜひ低木のハーブを庭に加えてみてください。それだけで、ハーブ生活のクオリティーはさらに高まると思います。
ハーブに分類される樹木のオリーブやローズマリーなどを、大型コンテナに寄せ植えし、エクステリアを豊かに彩っている。
樹形が乱れないよう 剪定で上手にキープしていこう!
低木のハーブのよい点は、まず宿根草に比べて寿命が長いことで、環境が適していればかなりの年数にわたって楽しむことができます。もちろん成長すると株は大きくなりますが、最初からそのスペースを考えておけば、ある程度まで育ったら剪定でそのサイズをキープできる種類も多くあります。よくミントが茂りすぎて困ったという悩みを相談されますが、ミントの繁殖力はとても強く、ほかの植物の生育スペースまで奪うくらい増えてしまいます(ミントだけは鉢栽培にしましょう)。こぼれダネで殖えすぎる一年草のハーブも多く、殖えるうれしさがある一方で、ほかの植物との調和を乱す悩みが生じることもあります。低木のハーブの場合は、その点においてもある程度計画的に成長させることができるのも利点です。また、玄関周りの植栽には一年中何かしらの色彩が欲しいので、常緑のハーブを植えておくのもおすすめです。
ハーブには料理やお茶に向くもののほか、ラベンダーやサントリナのように、ドライにして空気清浄や虫よけなど暮らしのシーンで活用できるものもあります。1種といわず、数種を育てて利用すれば、ハーブ生活はもっと充実することでしょう。ここでは、おすすめの低木のハーブをご紹介していきます。
コニファーなどでグリーンのグラデーションを成している玄関扉までのアプローチ。左側の植栽中央のみずみずしい常緑樹は、ハーブとして料理やクラフトなどに利用できるゲッケイジュ。
おすすめの低木のハーブ
育てやすく、暮らしに役立つ低木のハーブを集めました。特性のほか、育て方のポイント、利用法について簡潔にご紹介していきます。
心が落ち着くさわやかな香り「ラベンダー」
- シソ科の常緑低木
- 花期:5月中旬~6月中旬、9月~10月中旬
ラベンダーの種類は多様ですが、香りが最も強いのはイングリッシュラベンダーで、涼しい気候を好みます。温暖地では栽培が少し難しいですが、育てやすく改良された園芸品種を選ぶとよいでしょう。
管理のポイント
日当たり、水はけがよく、夏場に涼しい風が通り抜けるような場所を選んで植えましょう。湿気と蒸れに弱いので、乾燥ぎみに管理します。花が咲いたら、切り戻しを兼ねて、花茎を長めに切って収穫しましょう。また、適宜間引き剪定をして、風通しをよくしておきます。2年に一度くらい、冬に全体の3分の2ほどまで刈り込むと程よいサイズにキープできます。
利用法
枝ごと花穂を摘み取ったら10本ずつくらいに束ね、風通しのよい軒下などにつるして乾燥させます。乾燥後は枝ごとリースやスワッグにして壁飾りにするほか、ポプリやサシェを作るのもおすすめです。
愛らしい苞葉がつくフレンチラベンダーは、温暖地でも夏越しさせやすいのが特長。香りはあまり強くないので、花を眺めて楽しむのを目的にするとよい。
長崎ラベンダー しずか ®農水省品種登録出願中
「海外持出禁止(公示(農水省HP)参照)」
長崎県で育種された、暖地でも楽しめるイングリッシュラベンダー。花がよく咲き、開花後の花がらをピンチすることで連続開花し、長期にわたり楽しめる。
花も実も、葉も使える「マートル」
- フトモモ科の常緑低木
- 花期:5~6月
- 実の収穫期:秋
白い花、秋に実る黒い実、そしてよく茂る葉のいずれもハーブとして利用できます。つややかな葉には油線があり、たたいてもむと、ほのかにフルーティーな香りが生じます。
葉に黄色い斑が入るタイプは、カラーリーフプランツとしても活躍する。
管理のポイント
日当たりと風通しのよい場所を好みます。耐暑性は強いですが、耐寒性はやや弱いので、冬期に寒風にさらされない場所で管理しましょう。花後に翌年の花芽をつけるので、花が終わったらすぐに剪定を行います。
利用法
開花直後に花を摘み、エディブルフラワーとしてサラダに飾ることも可能です。実は秋に完熟したら収穫します。生食しても上品な甘さがありますが、ジャムや料理用ソースにしても美味。葉はたたいてもんで、香りを出してからハーブティーに利用します。
ヨーロッパでは縁起のよい樹木とされ、花嫁のブーケに利用されてきた歴史がある。日本でも「祝いの木」の別名をもつ。開花も見応えがある。
ハーブティーにおすすめ!「レモンバーベナ」
- クマツヅラ科の落葉低木
- 花期:8~9月
レモンに似たさわやかな香りをもち、癖がなく利用しやすいハーブです。明るいグリーンの葉色は、庭に明るい雰囲気をもたらします。耐暑性があり、温暖地でも栽培しやすいのも長所です。
管理のポイント
日当たり、風通しのよい場所に植え、乾燥ぎみに管理します。ただし、極度に乾燥すると葉が黄変して枯れてくるので、鉢栽培では水の管理に注意。株が乱れてきたころに切り戻すと、後にわき芽が出て枝数が増え、収穫量も増やすことができます。大きくなりすぎたら、落葉後に枝を切り詰めましょう。
利用法
一番のおすすめはハーブティーです。紅茶に混ぜたり、ほかのハーブとミックスしたりと、オリジナルの味を楽しむのもおすすめです。葉を乾燥させたレモンバーベナは香りが長く持続するので、ポプリやリースの材料などにも適しています。
ハーブの食材としてフレッシュもドライもあまり出回らないため、自宅で育てる価値が高い。
野趣感のある個性的な香り「ローズマリー」
- シソ科の常緑低木
- 花期:11月~翌年5月
彩りの少ない冬期にブルーの愛らしい花を咲かせます。立性、半匍匐性、匍匐性の3タイプの樹形があるため、どこに植えてどのように育てたいのか、目的を定めて適した品種を選ぶことが大切です。
管理のポイント
日当たり、風通しのよい環境、水はけのよい土壌を好みます。寒冷地では防寒対策が必要です。いずれの樹形も枝が伸びると株が乱れてくるので、収穫を兼ねて込み合う枝を適宜剪定しましょう。強剪定をする場合は梅雨前に行い、必ず葉が残るようにします。葉が残らず木質化した枝だけになってしまうと、葉が出ずに枯れてしまうことがあります。
利用法
葉に強い香りがあり、肉料理の臭み消しや、焼き菓子の香りづけなどに利用されています。また、ルームスプレーも簡単に作ることができます。消毒した瓶へ無水エタノール(100㎖)を入れ、そこへちぎったローズマリー(約30g)を加えてよく振ります。冷暗所で保存し、時々瓶を振っておきます。1~2週間すると、きれいな緑色のハーブチンキ*ができるので、精製水(50㎖)にこのハーブチンキ(10㎖)を混ぜると、ローズマリーのルームスプレーとなります。
ハーブチンキ=ハーブを高濃度のアルコールに浸けて作る濃縮液のこと。
立性タイプ。上へ伸びて成長するので、プランター植えの主木としてや庭の目隠しなどにも役立つ。
「ローズマリー・立性」は花と野菜ガイド2023年春号 p.20で販売しています!
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冬も淡いブルーの花が咲き、庭に彩りを与えてくれる。
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半匍匐性タイプ。幅をもたせながら、ある程度の空間を埋めたい場合に用いる。
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匍匐性タイプ。横に這うようにして成長し、地面のない所では下へ枝垂れていく。グラウンドカバーや壁面緑化などにも向く。
シルバーリーフが魅力「ホワイトセージ」
- シソ科の半耐寒性常緑低木
- 花期:6~8月
葉も茎も白い産毛に覆われ、株全体がシルバーグリーンに見えるのが特徴です。葉には少し清涼感のある香りがあります。成長は遅いものの最終的には約180㎝になるので、適宜剪定しながら、育てる場所に合った大きさで管理しましょう。
管理のポイント
日当たりがよく水はけのよい土壌に植え、やや乾燥ぎみに管理します。耐寒性は強いのですが、高温多湿にやや弱いので、花が一段落したら半分くらいの高さに切り戻し、風通しのよい状態にしておきます。
利用法
乾燥させた葉を器に入れ、ポプリとして飾るほか、生の葉の抽出液をスプレーして空気の清浄化にも利用できます。1ℓの水を沸かし、葉を10枚ほど加えて弱火で5分。火を止めたらそのまま1時間おけば抽出液のでき上がりです。冷蔵庫で約1週間保存できます。
アメリカ西部原産で、学名はサルビア・アピアナ。銀白色のカラーリーフとしても活躍する。
葉にバラのような香りをもつ「ローズゼラニウム」
- フウロソウ科の常緑低木
- 花期:5~7月
センテッドゼラニウムの一種で、葉にバラのような香りをもっています。花は指の先ほどで小さく、かわいらしいのが魅力です。高温多湿が苦手なうえ、強い寒さにあうと枯死することがあります。樹高は30~100㎝になるので、成長に応じて適宜剪定をしながら管理します。
管理のポイント
アルカリ性の土壌を好むので、土づくりの際には苦土石灰を散布しておきます。日当たりがよく、水はけのよい場所で乾燥ぎみに管理します。花がらはまめに摘み、株姿が乱れたら切り戻します。
利用法
ハーブティーに利用できるほか、摘んだ葉を刻んで、クッキーやスコーンの生地に練り込むのもおすすめです。また、摘み取った葉を沸騰させたお湯に入れ、すぐに火を止めてふたをして20分ほど蒸らし、冷めた後にスプレー容器に入れればルームフレグランスとして楽しめます。
小さなかわいらしい花は、押し花にして楽しむこともできる。
黄色の花もかわいらしい「サントリナ」
- キク科の常緑低木
- 花期:5月中旬~7月中旬
銀白色またはグリーンの細かい枝葉がこんもりと茂ります。樹高は30~50㎝。常緑で周年葉姿を楽しめ、玄関前や門脇の植栽に利用すると明るい雰囲気を演出できます。
管理のポイント
日当たり、風通しのよい場所で、多湿にならないように管理。高温多湿は苦手ですが、耐寒性が強く、寒冷地でも冬越しできます。花後に早めに花がらを摘み取り、枝が込み合っていたら適宜透かし剪定をし、風通しをよくしましょう。
利用法
サントリナには虫が嫌う香り成分が含まれていることから、防虫剤としてよく利用されます。枝ごと摘み取って乾燥させ、そのまま部屋につるすほか、小袋に入れたサシェをクローゼットなどにつるしておくのもおすすめです。
全草にラベンダーに似た香りがあることから「コットンラベンダー」の別名もある。
コットンラベンダー
別名「サントリナ・シルバー」。花は径約1㎝の丸い鮮黄色で、ドライフラワーにも向く。葉はシルバーグレーの常緑性種で、ポプリやリースの材料としてもよい。
シンボルツリーに利用したい中高木のハーブ
低木だけでなく中木や高木のハーブもご紹介します。庭や外構のシンボルツリーに、ハーブとして利用できる木があるのもすてきです。
エルダーフラワー
- レンプクソウ科の落葉中木
- 花期:5~6月
花にはマスカットのような甘い香りがあります。高温多湿にやや弱く、風通しが悪いと蒸れて弱ることがあります。毎年落葉期に剪定して、程よい大きさを保ちましょう。花を摘んでハーブティーやコーディアルに利用できます。
エルダーフラワー
欧州でハーブとして人気のあるエルダーフラワーの中でも比較的育てやすい品種。房状に咲く白色の小花には甘い芳香があり、夏につく黒赤色の実も美しい。
緑色細葉
黄色広葉
ティーツリー
- フトモモ科の常緑高木
- 花期:5~6月
オーストラリアに自生するティーツリー(学名メラレウカ)は葉に芳香があり、種類も多様です。特に香りがよいのが「メディカルティーツリー」と呼ばれるメラレウカ・アルテルニフォリアで、葉にはほのかに柑橘系の香りがあります。耐暑性、耐寒性ともに強く、比較的栽培しやすいのも魅力です。成長が早いので、花後の7月に樹形を整える剪定を行いましょう。夏に翌年の花芽を形成するので、それ以降に剪定をすると翌年の花が少なくなってしまいます。
ゲッケイジュ
- クスノキ科の常緑高木
- 花期:5~6月
カレーやポトフなどの煮込み料理に利用される「ローリエ」といえばなじみ深いかもしれません。雌雄異株で、日本で流通しているのはほとんどが雄株です。強健な性質で、放任してもよく育ちますが、マイナス8℃を下回る場所では寒さ対策が必要です。剪定は厳寒期を除けばいつでもよく、間引き剪定を中心に、風通しよく管理しましょう。
ユーカリ
- フトモモ科の常緑高木
- 花期:6~7月
ハーブとして利用されるのは主にレモンユーカリで、葉にレモンのような香りがあります。この香りを蚊が嫌うことから「虫よけの木」とも呼ばれています。根が浅く強風には弱いので、適宜剪定しながら管理できる大きさで楽しみましょう。寒さにも弱いため暖地以外では鉢植えで育て、台風前や真冬には移動できるようにしておきます。ただし、根づまりしないように注意が必要です。
田代 耕太郎(たしろ こうたろう)
早稲田大学芸術学校都市デザイン科卒業後、都市計画の仕事を経て㈱河野自然園に入社。「国際バラとガーデニングショウ」のハンギングバスケットコンテストで最優秀賞、「日比谷公園ガーデニングショー」で東京都知事賞を受賞。個人邸のガーデンデザインやリフォームなども手掛ける。