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ブドウづくりの名手に聞く「ブドウの魅力とは」 2022年7月号

ブドウづくりの名手に聞く「ブドウの魅力とは」

ブドウの新しい品種開発とコンサルティングに長年携わってきた志村富男さん。
50年以上もの間ブドウに魅了されてきたその訳とはなんでしょう。
ブドウの魅力と長きにわたる経験から知り得た栽培のコツを教えていただきました。

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「ブドウが好き」というシンプルな理由から始まった

私は、ブドウの栽培や品種開発に携わって約55年になります。どうしてブドウを選んだのかと考えると、やはり「ブドウが好きだった」というシンプルな理由が挙げられます。ほかの果実は、品種が違えど色や形は似ているものが多い。ですが、ブドウは、姿形もそれぞれで粒の大きさも異なるというおもしろさがあると感じています。世界的に見ても、ブドウは約8000種もの品種があるといわれ、人間の手で育てる際の技術やテクニックによって多岐にわたる品種が開発されてきました。
ここ10年の間にも興味深い品種がいくつも登場しています。粒がハート形のものや、1粒が卵ほど大きいものなど、ひと目見てほかとは少し違うブドウだと分かるものが増えてきました。

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実の腐敗を防ぐためビニールフィルムで覆う。

分析だけでは成し得ない鋭い勘で数々の品種を生み出す

これだけ多くの品種が開発されてきましたが、そのためには費用も期間も人力もかかり、決して簡単な道のりではありません。一つの品種が生まれるまでには、期間だけでも10年以上を要します。ただ新しいものを作ればいいわけではなく、求められるもの以上のブドウを作らなければいけません。そのために私が信じてきたのは、今までの経験から感じ取ってきた“勘”。分析や調査でデータ的な根拠を見つけることはできますが、データ以上のものを得ることはできないのです。1+1=2の答えは分析で見つけられます。ですが、私が求めるのは、1+1が10にも100にもなる大きな可能性を秘めたひとつを生み出すこと。そのためには、どの品種を親にすればよいのかイメージを膨らませて、交配する時にそのイメージをブドウにていねいに伝えるように心掛けてきました。そのおかげか、姿形が変わっていたり、色が変化したりと、今までにない個性豊かな品種がいくつかでき上がりました。
品種開発において、よくいわれることは「一生のうちに1品種できればよい」という話。私は、これまでに10~20品種もの開発に成功してきましたが、これは「運」が味方してくれたとも思っているんです。現在75歳ですが、あと5~10品種ほどは作りたいなと考えています。

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ブドウの花の交配の様子。ひとつひとつ手作業で行う。

おいしいブドウを追求して自社開発製品に圧倒的自信

私はこれまでに世界各地を渡り歩いてきました。その中で、東南アジアやヨーロッパ、アメリカなど、さまざまなブドウに出合いましたが、私の研究所「志村葡萄研究所」で開発したʼ富士の輝ʻが一番ではないかと思っています。粒の大きさが約30gと大粒で、糖度も22、23度。見た目も美しいブラックシャインマスカットです。
品種改良を行う中で苦労するのが、よい親を掛け合わせているのになぜか味が乗ってこないこと。また、せっかく味がよくても、病気に弱くてなかなか作れないという問題も起こりやすいです。しかし、ʼ富士の輝ʻは、病気にも強く、見た目もキレイな「美人なブドウ」。最近主流となっている皮ごと食べられるブドウであることも、人気が高まる理由です。このような品種を日本で作れるというのはうれしいことです。

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日本初のブラックシャインマスカット ʻ富士の輝ʼ。※タキイ通販での取り扱いはありません。

[全国各地を回って]志村さんの品種開発秘話

1. 不毛の地でのスタート!?

マンズワイン株式会社から独立してすぐのころは、ワイナリー用のブドウ畑をつくってほしいという依頼が多くありました。そんな中飛び込んできたのが、リンゴの名産地青森県の下北半島にワイナリーの畑をつくってほしいという話。現地で話を聞けば、この地は「やませ」と呼ばれる冷気が6~8月にかけて吹く地域で、リンゴすら栽培ができないという植物にとって険しい環境でした。
このような場所でブドウを育てるというのは非常に難しい課題です。ヒントを得たのは、下北半島に咲く花々。山梨県では4月ごろ咲く花が、ここでは7月まで咲いていたりする。このような自然の力を頼りに、7月一杯くらいにブドウの花が咲けば、きっと10月下旬には収穫できるだろうと推測。ドイツやフランスなど世界各国の品種の特性を洗い出し、下北半島でも育てられる品種を生み出したのです。今では、品評会で金賞を獲得するほどの立派なワイナリーへと成長しました。

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2. 生産者が “不幸にならない” そのためにできること

品種を開発する中で心配しているのが、生産者がブドウを育てることで苦労が続いて「不幸」になってしまうこと。そうならないために私にできることは、その土地に合う品種を生み出すことです。土地をしっかりと読み解いて、確実に育てられるようにする。また、世界中のワインと比較されないように、その土地らしさを感じるものを作りましょうと私はいつも話します。自分が作った品種の中から交配を分析し、地域との相性を見て特産品として売れるものを考えています。

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3. 全国津々浦々の開発で志村さんが貫いた姿勢

北から南までさまざまな地域での栽培に奮闘する日々で、私は常に現場で汗を流すことを大切にしてきました。育て方や品種の交配方法を教師のように教えることもできますが、私には向いていないなと感じました。自分で汗を流して身をもって経験したことは、知識以上に深く根づくものです。私は自分が畑で得た経験をもとに、泥だらけになったり、重機で穴を掘ったり、雨よけの屋根を立てたりして、日本中どこででも汗を流してきました。こうした姿勢を見て、「志村さんにお願いしたい」といってくれる人、また、その知り合いが声をかけてくれることもあります。きちんと畑と向き合うことは、よい作物を生み出すだけでなく、深い人間関係の結びつきにもつながるのではないでしょうか。

家庭でブドウを育てるコツは?

自家栽培でブドウを育てるのはハードルが高いもの。ですが、家庭で育てる際に気をつけておきたい三つのポイントがあるといいます。農家さんのように育てるのは難しくても、この三つを押さえておけば、理想のブドウがなるかもしれません!

POINT 1. 観察

一番大切なことは、きちんと観察することです。ブドウは、病気に弱い果実。静岡県をはじめ、雨の多い西側のエリアでは、ほとんどの地域で雨よけの屋根を掛けています。人も果実も同じで、天候や気温の違いで不調が起きてしまいます。そうならないために、日頃から葉や枝の色・形などの様子を観察して、病気の早期発見と予防を心掛けましょう。

志村さんのひと言メモ

手塩にかけて育てるほど、実がなった時の喜びは大きいもの。「ブドウの顔」を見て、ていねいに観察しましょう。

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POINT 2. 葉数に注意

ブドウは、葉が出てから放置してしまうと、どんどん伸びてしまうので要注意。十分な品質をもつブドウに育てるには、葉が18~20枚程度になるように摘芯をするのがよいでしょう。実をたくさんつけたいからといって、余分な葉を残すとかえって成長の妨げになることも。海外の分析でも、これくらいの葉数で問題ないというデータが出ています。

志村さんのひと言メモ

育てて愛情がわくうちに、もったいなくて枝を切れなかったり摘芯しなかったりすることもしばしば。育種の段階でもよくあることですが、ここは割り切って、適した数の葉だけ残してみましょう。

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POINT 3. 棚を明るく

きちんと摘芯をしていれば、自然と棚が明るくなります。このような状態で、育てるとよいでしょう。欲張ってたくさん収穫しようとせず、葉の数に見合う適正な収穫量を見極めることが大切です。

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志村さんおすすめのブドウ3品種

とにかく実をつけたい!
ブドウ・マスカットベリーA

初心者でブドウを育ててみたいという方には、ベリーAがおすすめ。雨にも暑さにも強く、また、病気にも強いので、非常に育てやすい品種です。剪定方式にこだわらなくても栽培できるのもポイントです。

志村さんの開発品種に挑戦!
マドンナの宝石

志村葡萄研究所で生まれた品種はどれもプロ向けのものばかりですが、マドンナの宝石は比較的栽培しやすいでしょう。家庭では難しい着色も、この品種は色づきもよく楽しめます。甘みと酸味の絶妙なバランスで皮ごと食べられる食味良好な品種の栽培に、ご家庭で挑戦してみてください。

タキイ通販での取り扱いはありません。

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家庭栽培上級者向けの品種。自宅で高級ブドウを堪能しよう!

育てやすい&人気!
シャインマスカット

人気が衰えることを知らないシャインマスカットは、育てやすい品種の一つです。病気にも強く、たくさん実るのが魅力。グリーンなので、着色を気にせずに育てられます。
甘みが強くて皮ごと食べられる人気の品種が自宅で収穫できたら喜びもひとしお!

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[まだまだ続く]志村さんの挑戦の目標

これまでは、コンサルティングに力を入れて全国各地を飛び回っていましたが、そろそろ品種開発の方により力を入れようかと考え始めています。
また、新たに挑戦してみたいのが鉢植えのブドウ!コロナ禍の影響もあり、より多くの方が、鉢植え栽培に興味を抱いていると実感しています。一つの鉢の中で3~5房ほどのブドウがなったらいいかなと。そういった新しい視点の開発にも挑戦していきたいです!

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ブドウ栽培を始めよう!!

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    雨にも暑さにも強く作りやすい!
    マスカットベリーA

    1粒約7gと小ぶりだが、濃厚な香りと強い甘みで人気。生食のほか加工用にも向く。ごく豊産で育てやすく、初心者にもおすすめ。収穫期9月。

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    かわいいハート形で皮ごと食べられる!
    マイハート

    1果15~20gの大粒種でユニークなハート果形。着色容易で鮮紅色になり、果皮は薄く、皮ごと食べられる。しっかりした肉質で糖度は高く食味も非常によい。収穫期9月中旬~下旬。

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    皮ごとさくっと食べられる、甘くておいしい話題の品種
    シャインマスカット

    1粒12〜14g、1房600~700gになる大房種。皮ごと食べられる実はしっかりした肉質でジューシー。酸味が少なく甘く、味・香りともにとてもよい。収穫期8月中旬~9月上旬。


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志村 富男(しむら とみお)

マンズワイン株式会社に34年間勤務。その後、ブドウ栽培や開発のノウハウを生かして葡萄栽培開発に専従。現在は独立して「志村葡萄研究所」を設立。国内外から注目され続けているブドウとワインづくりのプロフェッショナル。