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「本物」のイングリッシュブルーベル その青く美しき花を慈しむ 2021年12月号

「本物」のイングリッシュブルーベル その青く美しき花を慈しむ

イングランド南部のイングリッシュブルーベルの群生地。この中にもスパニッシュブルーベルとの交配種が混じっている可能性も…。


イギリスではイングリッシュブルーベルの保護活動が行われている

イギリス人がこよなく愛する花の一つが、イングリッシュブルーベル(イングリッシュ系)です。4月下旬~5月上旬に樹林下に行くと、辺り一面を真っ青に染めるほどの群落をつくり、本格的な春の訪れを知らせてくれます。樹木下で楚々と咲く様子は、日本のカタクリに少し似ているように感じます。しかし、イギリスにおけるイングリッシュブルーベルの自生地は、現在危機的状況にあるといわれています。というのも、非常に強健で増殖が早いスパニッシュブルーベル(スパニッシュ系)の栽培品種が庭などから飛び出し、イングリッシュ系と容易に交雑をし、イングリッシュ系の自生地を取って替わってしまう勢いで殖えているからです。
20世紀後半に徐々に専門家の間で問題視されるようになり、ちょうど私がイギリスで研修していたころを境に、保護法を定めて輸出入を禁止する動きが始まりました。ロンドンの王立植物園「キューガーデン」で短期研修をしていた時に、研究者と貴重な自生地を巡る機会を与えられました。その森に足を踏み入れた途端、言葉を失い鳥肌が立つほどの感動を覚えました。目の前には青い花のカーペットが敷かれ、辺り一面に甘い香りが漂います。しゃがみ込んで一輪一輪を見ると、それがまたかわいらしい!小さいベル形の花を愛おしく感じたことが今でも鮮明に思い出されます。
スパニッシュ系ではなく、本物のイングリッシュブルーベルの魅力をぜひ多くの方に知っていただきたく、その特長や栽培方法を詳しくご紹介します。今回はイギリス・ケント州のナーセリーから譲り受けた「本物」のイングリッシュブルーベルの芽出し苗の購入も可能なので、ぜひご自身で貴重な花を咲かせてみてください。

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鮮やかな青紫、釣鐘状の花。この愛らしさに魅了される人も多い。

イングリッシュブルーベルとスパニッシュブルーベルの違いは?

イングリッシュブルーベルの学名は、ヒアシンソイデス・ノンスクリプタ。イギリスの南部、東部を中心に、常にやや湿り気のある樹林下に自生しています。ベル形の花は小ぶりで濃青色が美しく(まれに白花もある)、甘い香りがして野草らしい清楚な印象を受けます。花はしなった釣竿にぶら下がるように咲き始め、咲き終わると真っすぐに立ち上がり、タネを熟させるのが特徴です。タネまきから開花までは平均的に6~7年は必要で、育て方によっては分球し、鉢栽培では開花率があまりよくない傾向があります。球根は卵よりやや縦長の形をしているのも特徴です。
現在、日本を含め世界中で「イングリッシュブルーベル」として流通しているものの中には、ヨーロッパ大陸を中心に広く自生するヒアシンソイデス・ヒスパニカ(スパニッシュブルーベル)が混じっているのが実情です。スパニッシュ系は非常に成長スピードが早く、駐車場の片隅でも花を咲かせるほど強い性質をもちます。花は淡い水色から白、ピンクまで幅広くあり、ほとんどの個体は香りがありません。茎は釣竿のようにしなることなく、真っすぐに立ち上がり、花は茎を取りまくようにぶら下がって咲きます。葉の幅も広くて長く、葉だけを見ると小ぶりなスイセンのようにも見えます。イングリッシュ系との交雑種も多いので、まれに香りがしたり、花が小さめの個体もありますが、ほぼスパニッシュ系の性質を強く引き継ぎ、球根も卵形より丸形(横長)に近いので、比較的容易に区別できます。夏の休眠期に株を乾燥させ、球根を掘り上げても弱ることがないので流通にも適し、広く普及していると思われます。
前述の違いからも、強健なスパニッシュ系がどんどん殖えたためイギリスのイングリッシュブルーベルの自生地でも環境の変化や交雑により純粋な自生地とはいえない状況になっているのです。決してスパニッシュ系が悪いというわけでなく、生態系の保護の観点から、またスパニッシュ系よりやや華奢な印象のイングリッシュ系をひいき目に見てしまうのは私だけではないと思います。

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    イングリッシュブルーベルは、釣竿のようにしなる茎の片側に花をつけるのが特徴。

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    スパニッシュブルーベルは茎が直立し、茎を取りまくように花がつく。花色も少し淡め。

お墨付きのイングリッシュブルーベルを栽培してみませんか?

今回販売するイングリッシュブルーベルは、イギリスのケント州産、と素性が確実に分かるものです。イギリスでの研修時代、「キューガーデン」では産地のはっきりしているものを殖やしていました。その余剰分を短期研修のお祝いにと特別に分けてもらったことが栽培のきっかけです。ケント州には有名な原種シクラメンのナーセリー(タイルバーンナーセリー:現在は閉園)があり、幾度となく通っていました。そのご縁もあって思い入れの強い地域の一つでもあります。もちろんそこでも売られていましたが、検疫を通すのにしっかりとした証明書が必要であったことなど踏まえて、大量に購入することは不可能でした。球根を入手してしばらくは、イングリッシュブルーベルの愛らしさに魅了されながら、個人的に栽培していましたが、園芸仲間に非常に貴重なものだということを教わりました。いろいろ調べていくと研修中とも事情はどんどん変化し、採掘採種禁止どころか輸出輸入禁止までの法律ができるほど事態は深刻化していることに気がつき、2005年くらいから本格的に維持していこうと思うようになりました。そんな事態を招いた一番の問題ともいえるスパニッシュ系との雑種化については、幸いにも横山園芸で管理している近くにはスパニッシュ系がなく、その後も温室の隔離した場所で管理をしていました。しかし、水分や温度コントロールができる温室の中で育つのは当たり前。過酷な環境の日本でも、イギリス本国でもしっかりと育つものを殖やしたいと思い一部屋外で育てながらも、混じり気のない純粋な選抜品種を殖やすよう心掛けています。
なお、開花見込みサイズの球根を植え付けた状態でお届けしますが、サイズが大きくなってもその年に咲かない場合もあります。その場合は後述の「翌年も花を咲かせるために」を参考に管理を続けてください。翌年の春には開花が楽しめます。

イングリッシュブルーベルを芽出し苗から上手に咲かせるには…

栽培環境

イングリッシュブルーベルは、基本的には一日中直射日光が当たらないような落ち葉がふんだんに積もる明るめの樹林下に自生しています。栽培環境としてはまず、年間を通して適度な湿度を保つ必要があります。地上部が出て生育する期間は3カ月程度と短く、3~5月(サクラの蕾が色づき始めたころからアジサイが咲き始めるまでの期間)はできるだけ強い直射日光は避け、50%くらいの遮光をするつもりで管理し、25℃以上になるような日は、日陰に移すことをおすすめします。遮光資材を利用してもよいと思います。東京などの温暖地ではやや暗めの場所で栽培すると調子がよく、暑い日に用土が乾いてしまうとすぐに休眠に向かってしまうので注意が必要です。
生育期間中は肥料を切らさないことも大切で、私の場合は、薄めの液体肥料を葉が黄色くなり乾燥するころまで与え続けています。基本的には寒さには非常に強く、高冷地でも育ちますが、生育期間を少しでも長くするためには凍りにくい場所、雪が早く解ける場所などを選んで植えるとよいでしょう。

植え付け(庭植え・鉢植え)

球根の植え付け適期は9〜12月です。庭植えの場合は5cm程度の深さに植え付け、落ち葉やバークチップ、ヤシがらなどでマルチングをすると保湿になり、地温の上昇を防げます。私は天然ヤシの実を利用した植え込み資材のベラボンもよく利用しています。
鉢栽培の場合は直径1cmほどの開花サイズの球根に対し、最低でも直径9cmくらいの鉢を用意します。浅い鉢よりも湿度が安定する深めの鉢、素焼き鉢より極度な乾燥を防げる塗り鉢やプラスチック鉢が向いています。鉢が小さいと込みすぎて球根が圧迫され、細かく分球するようになり、開花しなくなります。また、浅く植えると自身で高さ調整をするために、球根がひょうたん形になり、下へ潜ろうとして体力を使った結果開花しなくなります。用土はクリスマスローズ用土(赤玉5:鹿沼3:ベラボン2)のように、適度な水はけがあり、保肥力、保水力のあるものがよく、表面に保湿とコケや雑草が生えないようにベラボンでマルチングをしています。
また、冬季に鉢の中が凍っても枯れることはありませんが、様子を見ながら日中は暖かい場所で管理してください。

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親指くらいの球根で開花サイズとなり、この後、5月くらいには分球を開始する。

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右は芽出し苗、左は鉢に植え替えて2年目。株が大きく育つと花茎の本数も増えて見応えがでる。

翌年も花を咲かせるために

イングリッシュブルーベルの葉は、冬に葉が展開してからあまり見た目は成長しません。しかし根が動き、分球をしたりと、目に見えない場所で成長を続けています。生育期間が短いので、花が終わった後も、薄い液体肥料で成長を促します。葉は完全に枯れるまで残しておきます。そして休眠中の夏~秋にも、完全に土が乾かないように、適度な湿り気を保つようにすることが大切です。

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葉がしおれた後も水と肥料は与え続け、葉がカリカリに乾燥するまで水を与え、完全に乾いたら葉を取り除く。できるだけ涼しい場所で管理し、長く葉を維持することが球根の生育につながる。


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横山 直樹(よこやま なおき)

1978年東京都生まれ。イギリスでの研修を経て、横山園芸を継ぐ。クリスマスローズ、ダイヤモンドリリー(ネリネ)、アネモネ・パブニナ、小球根類の生産と育種を手掛ける。花の魅力を広く伝えようと、エディブルフラワーの栽培にも力を入れている。合言葉は「花は必需品!チカラコブ」。